two years ago

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私の8歳の誕生日。 病に倒れた祖父が、死ぬ前に一目だけでも母に会いたいと使いを寄越した。 祖父母は母が亡くなったことを知らなかった。 初めて会った祖父は蝋人形のように真っ白な肌をして横たわっていた。 「苦労を掛けたな。すまぬことをした。私を許せ」 祖父は涙を浮かべ許しを求めた。 私にはどうでも良かった。 詫びよりも欲しているものは、懐かしい空への帰郷だけだった。 私は祖父母の養子として迎え入れられた。 そこで初めて私の本当の名がリータではなくサーシュだと知った。 この名は母がつけた。 母が私に残した唯一のものだ。 母は生前お腹を撫でながらこう言ったそうだ。 「この子が大きくなって、全てを許す時がきたらサーシュと名乗らせましょう。それまではリータ」 私は全てを許す前にサーシュと名乗ることにした。 サーシュという名は罪の名前。 この穢れた卑しい身にこそ相応しい名だ。 祖父母は鍛冶屋の父を私の教育係にあててくれた。 場所は違えども父との生活は続いた。 私は祖父母の屋敷であらゆる学問を学んだ。 それが親子の時間であり、何よりも大切な宝だった。 その父も6年前に神に召された。 本当の父よりも情が深い、私にとって唯一人の父。 この時、私は悟った。 もう…帰るべき故郷は無い。 ひとりぼっちになった私を待ち受けていたのは、親族の冷たい仕打ちだった。 「罪の子」 「神への冒涜」 それらが私の呼び名だった。 誰も私を名前で呼んだりはしない。 「お前なんて生まれてきてはいけなかったのに!」 毎日のように浴びせられる罵声。 私は耐え切れず、ある日、屋敷を飛び出した。 
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