two years ago

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-カッ カッ カッ 王宮の長い廊下を歩く。 西に傾きかけた太陽の光が、金の装飾品に輝きを与える。 世界中の光が集いし黄金の輝き。 贅の極みの華やかな城。 この王宮こそ、我らの母エリーゼ様に最も相応しい。 **side Shaun** 「スカーレット侯爵!」 振り返るとそこには懐かしい顔が。 「マーク!」 「侯爵、お久しぶりです」 「いつ戻った?」 「今朝です。たった今、陛下に謁見を賜りました」 この男はマーク・サン・ドュ・フラワー。 ストランド王国出身で爵位は伯爵。 王族の生き残りだと聞くが、明るい表情からは悲惨な過去は感じられない。 ストランドはイングリッドの北に位置する、自然が豊かな美しい国。 俺も何度か訪れたが、平和で長閑で愛すべきストランドだった。 そう…。 8年前までは…。 「今回はいつまで?」 「秋に建造中の大型船が完成しますので、それまでは陸の上です」 彼は我がイングリッドが誇る艦隊に所属している。 この若さで部隊を統率する有能な指揮官だ。 この度、大尉に昇進したらしい。 イングリッドが世界中の属国を統治出来るのは、大艦隊の働きがあればこそ。 我がイングリッド大帝国は「太陽の沈まない国」なのだ。 「この後の予定は?」 「ありません」 「一杯どう?長旅の話しでも聞かせてくださいな」 「喜んで!」 「馬車を呼ぼう。今夜は飲み明かすぞ」 俺がマークと最初に出会ったのは8年前の秋の日だった。 あの頃の俺はイングリッドのスカーレット家とジプシーの家族を行き来する日々だった。 学問はイングリッドで学び、王宮近くの寄宿舎で生活をしていた。 そこへある日マークがやって来た。 出会った頃の彼は終始俯いていた。 緑がかった瞳は生気を失い、強いショックにより声が出なかった。 彼がストランド王族の生き残りと知ったのは数日後だった。 ストランドの悲劇は聞き知っていた。 想像を絶する状況であったろう。 目の前で愛する国が、家族が、全てが焼き打ち払われたのだ。 火の海の中でマークは何を見たのだろう…。 -ヒヒーン 馬車が来た。 日頃は馬だが、今夜は友との酒宴。 愛馬ヘレックスは家人を迎えにやろう。 『飲んだら乗るな 乗るなら飲むな』 俺はしっかり守ってますよ。
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