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「ねぇねぇ。ショーン聞いてよぉ」
王宮を一歩出ればタメ口をたたいてくる。
マークなりに公私の使い分けをしているのだろうが、その基準が俺には理解不能だったりする。
「どした?」
「見ちゃったぁ~」
「どこぞの貴族の不倫現場か?」
マークが持ち込む話はいつもこの類いだ。
たまに思う。
コイツ本当に王族なのか?
「もぉ~。違うんだってばぁ。あの公爵様を見ちゃったの」
「あの公爵ってあれか?」
「そう!あれ」
“あの”“あれ”で通じ合う俺たちって、なんなんだ?
「ドコで?」
「もちろん!」
そう言いながらウインクをしているつもりなのだろうが、完全に両方の目を閉じている。
しかし、この場合はあえて気づかぬフリ。
「お前、もしかして法王の宮廷に忍び込んだのか?」
「あったりぃ~」
なんて事もなげに言ってやがる。
法王の宮廷だろ。
警護が厳しいのなんのって。
「今度は何にバケた?」
「アラブの商人!てゆーか、バケるってやめてよ。オバケみたいで怖いじゃん」
「そっち?」
「うん。そっちぃ~」
この男には変装という特技がある。
俺に言わせれば趣味レベルだが、意外と引っ掛かってしまうアホが多い。
法王の警護は手薄なのかアホなのか?
旧教徒は確実に後者だな。
「で。どうだった?噂では美貌の歌姫だと聞くが」
「それがね。フツーのお兄さんだった」
「フツーのって!?法王の寵愛を受ける当世一の美姫だろうが!」
「だから、フツーのお兄さんなんだってばぁ」
「うっ…頭が痛ぇ」
マークと真面目な話をするんじゃなかった。
こいつの思考回路は常にお花畑だ。
たまに思う。
コイツ本当に指揮官なのか?
「俺たちより背が低くて、顔は色黒で眉が垂れてたよ」
「わかった。もういい」
「なんでぇ?」
「お前は別の人物を公爵と勘違いしてるんだよ。法王の寵愛を受ける美姫が、色黒のちっちゃいお兄さんなわけがあるかっつうの!」
「だよね~。さすがショーンちゃん」
「“ちゃん”はやめろっ!」
「は~い」
コイツのお花畑は、ノンアルコール状態でもニューブリッジの連中並みだ。
ちなみにニューブリッジとは、イングリッドの中心地で働く男たちが仕事の疲れを癒やすために集まる酒場街で、俺たちはそこに向かおうとしている。
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