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「ドコに行ってたの?」
「ネーテルやロメリオとか。まっ、その辺だよ」
コイツの感覚では欧州全体がご近所らしい。
船乗りは地理に明るいハズだが、例外もいるってことだね。
マークらしいわ。
いつも思う。
コイツ本当に自由だな。
「そうだ!マークがあの公爵に会ったそうなんだ」
「あの公爵ってあれ?」
「そう!あれ」
公爵といえば、法王に「全てを捧げる」とまで言わせた当世一の美貌の歌姫だろ。
めったに人前に出ることはなく、新教徒で姿を見た者はいないとか。
マークが新教徒の第1号なのか。
「それがさぁ。眉の垂れ下がったちっちゃいお兄さんだったって言うんだよ」
「ちっちゃいお兄さん?」
「そうなの!フツーのお兄さんだったの」
フツーのお兄さんが法王を虜にした?
いくら高齢のジジィだって、それくらいの分別はあるでしょうよ。
「お前ね、誰かと勘違いしてない?」
「ショーンちゃんにも言われた」
「だから“ちゃん”はやめろって!」
「ごめん。ごめん。ショーンちゃんごめんね」
マークの辞書に「学習能力」は無い。
いつも思う。
コイツ本当に天然だな。
「公爵ねぇ。美貌もさながら歌声が素晴らしいって噂だね。一度聴いてみたいわ」
「お前、聴いたの?」
「いや。姿を見ただけ」
「見ただけ?」
「宮廷の中を案内されている時にすれ違った。案内の人が、公爵様って呼んでいたからそう思ったんだけどね。だけど勘違いだと思う」
まぁ、勘違いでしょ。
「ちっちゃいお兄さんね。ちょっと興味あるわ」
「それじゃあ、今度はカナリーも一緒に行く?」
「俺は、陛下の御側を離れない」
そう。
幼き日に捧げた陛下への忠誠。
これが俺の全てだ。
「ショーンちゃんは?」
「だから“ちゃん”はやめろって…言ってもムダだな。俺は別ルートで潜入するさ」
「アヤにバケるの?」
「バケるって言うな!」
「あーん。ごめん。怒らないでぇ」
まったく。
1年ぶりの再会なのにマークってさ。
愛すべきバカですわ。
コイツが旧教徒の城に潜入するには理由がある。
ストランドで見た敵兵の大将。
そいつを探しているらしい。
総指揮はアスラトシムだが、実際に手を下したヤツを見つけ出して仇を討つのが唯一の望みなんだってさ。
マークには、復讐心しか残っていない…。
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