Sarsh and Amano

3/4
前へ
/46ページ
次へ
「アマーノ!湯を沸かせ!」 「お帰りなさいませ。サーシュ様」 「すぐに風呂の準備をしろ」 「すでに用意を致しております」 アマーノは私の身の回りの世話をする青年。 私が唯一この宮廷で心を許す相手だ。 一通りの教養は身についているのでそれなりの家柄の出だとは思うが、自分のことを話したがらない。 幼い頃に肉親をなくしたらしい。 天涯孤独となり、筆舌に尽くせぬ苦労をしたに違いない。 私と似た境涯の彼に、私自身を重ねて見ることもある。 私には楽団の仲間がいたが、アマーノにも誰かいたのであろうか。 宮廷に来るまでどうやって生きてきたのだろう。 一人で寂しくないのか。 そして…今は、幸せなのか。 アマーノに対する感情は、私自身へ投げかけているのかもしれない。 「モンターレ伯爵夫人の香りがいたします」 「臭くてたまらん。全て燃やしてくれ」 「法王様から頂戴したお召し物ですよ」 「かまわぬ。法王様には肥溜めに落ちたと言えばよい」 肥溜めの方がメスブタの香水より遥かにマシだ。 あのメスブタは最悪だ。 軽々しく愛を語り、私を欲しいと言い放った。 思い出すだけで吐き気が止まらない。 衣装は燃やせば良いが、鼻の奥にこびりついた臭いは消せない。 まったくもって不愉快な女だ。 「先程、法王様の使者の方が参りました」 「またか。懲りない御方だな」 「たまには法王様へお顔を見せて差し上げては如何です?」 「面倒だ。だが、アマーノが言うなら見せてやっても良い」 法王様に逆らってはいない。 ただ、会いたくないのだ。 法王様は慈悲深い。 この世の神そのものだ。 この汚れた身は神には相応しくない。 私の心が神を拒絶するのだ。 法王様に知られるのが怖い。 神に背いた化身の我が身を、法王様に知られるのが…。 法王様は私を許さないであろう。 私も許さない。 我が身を許さない。 本当の父を…許さない。 
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

102人が本棚に入れています
本棚に追加