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満月の次の夜。
もう何度この月が巡ってきたのだろう。
**side Majune**
アヤから文が届いた。
メロをスカーレット家の養女に迎えたいと書いてある。
スカーレット家で教育を受け、相当な身分の貴族へ嫁がせてくれるらしい。
ジプシーで一生を終えるより、何倍も幸せになれる。
夢のような話だ。
だけど…俺は。
メロは…。
アヤを慕っている。
兄と妹ではなく、ひとりの男性として。
メロには幸せになってもらいたい。
兄として、俺にできることはメロの幸せを願うだけ。
アヤ…。
残酷だよ。
少しはメロの気持ちに気づいてやれよ。
ジプシーの娘を妻にしろとは言わない。
だけど…メロを見てやれよ。
妹じゃなくて、ひとりの女性として見てやれよ。
アヤはもう…俺たちの兄貴じゃないんだから。
「おにいちゃん!やっぱりここにいたのね」
「メロ」
「また月を観てるのね」
メロが隣に座った。
長い髪が夏の夜風に舞う。
「あたし行くわ」
「どういうことか分かってる?」
「ジプシーで終わりたくないもん」
月を眺めるメロ。
俺は知ってる。
おまえはアヤを想いながら月を観てる。
もう…ずっと前からそうやってきただろ。
「アヤが言ったの。俺に会いたくなったら月を観ろって」
「アヤが?」
「もう…月を観なくても…いつでもアヤに会える」
強がるメロの肩が震える。
俺はメロを抱きしめた。
「おにいちゃん?!」
「バカだな…。おまえはバカだよ」
「そうね…。」
どんなに求めても、アヤがメロを娶ることはない。
アヤの側でメロは何を見る。
アヤの家族の幸せをただ見守るだけか…。
「流れを止めると水は腐るってアヤが言ってたよ?」
「あたし…流れてないから…」
一週間後。
メロはイングリッドへ旅立った。
アヤが去り、そしてメロも。
俺はひとりぼっちになってしまった。
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