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ストランドの旧都から夜通し馬車を走らせ南へ下る。
この辺りは戦火を逃れ旧市街の様子を留めている。
北は新教と旧教が統治権を争っているが、この街を境にイングリッドの領地となる。
朝の光が眩しい。
幼い頃の私は太陽と共にあった。
田舎の港町には多くの光が注がれたものだ。
今は薄暗い宮廷で太陽を見ることもなく、退屈に日々を過ごしている。
宮廷は明るいのかも知れぬ。
だが、それは真の灯りではない。
金や宝飾で造られた偽りの光なのだから。
財宝にどれだけの意味が有るのか。
そこには温もりなど無い。
有るのは虚飾のみ。
虚しいものにすぎぬ。
馬車の小窓から外を覗けば、一条の光が北方を射している。
ストランドの空が朝日を浴びて輝いている。
昨日目にした光景とは別のようだ。
「アマーノ。御覧なさい」
「美しゅうございます」
「そなたの故郷にも太陽は降り注いでおるではないか」
空には境界線は無い。
新旧関係なく全ての民に陽は注がれるのだ。
神のもとに子は全て平等なのだ。
私が言っては慰めにもならぬか…。
穢らわしきこの身が忌まわしい。
ストランドの民よりも、消えるべきは私自身なのだ。
生まれてこなければよかった。
悪魔はこの私の中に巣くっている。
叔母は私を“悪魔の子”と呼んだ。
「悪魔の子。お前なんか生まれてきてはいけなかったのに」
半ば狂乱気味に薔薇の花束で私の背中を打った。
棘が身を刺し、鮮血が滴り落ちた。
祖父母の家でつけられた背中の傷跡。
この傷が痛むとき、私は自分が悪魔であることを思い出す。
傷跡からじわりと悪魔が忍び込んでくる。
そうだった…。
私も旧教徒なのだ。
アマーノから幸せを奪い取った悪魔なのだ。
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