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故郷の風が頬をさす。
今年は戻ってこれたよ。
**side Mark**
あの日も此処にいたんだよね。
よく晴れた気持ちのいい午後だった。
「今は煤けた荒れ地だけど、昔はひまわり畑だったんだよ」
美しい緑の王国。
“欧州の翡翠”と呼ばれた我が故郷。
誰もが羨むストランド王国。
この荒れ地にはストランドの面影すら見えない。
「ここがマークの故郷ですね」
「誇り高き王国だった」
「俺のストランドだよ」
両親と妹が眠る土地はいまだに荒れ果てたまま。
3年前までは新教と旧教が統治権を争っていた。
緑の国土は戦場と化し、全てが燃え落ちてしまった。
とても人が住める状態じゃない。
2人の兄は消息が分からない。
どこかで生き延びていてほしい。
旧教軍の馬に踏まれた弟はその時以来廃人となった。
俺が呼びかけても遠くを見るばかり。
国王夫妻は惨殺された。
王子たちは旧教軍の捕虜になり、王女は兵士たちの慰みものとなった後に自ら命を絶った。
「今は停戦中だったな」
「いい加減に旧教も手を引きゃいいのに」
「関係ないよ。新教も旧教もどっちも要らないよ」
「マーク?」
「勝手に戦争するなよ。ここはストランドの土地なんだよ。やるなら他でやれよ」
宗教の名のもとに他人の土地を荒らしていいわけないよ。
いつまで続ければ気がすむの。
神様は何が望みなの…。
「マーク。お前の気持ちは痛いほど分かる。だがな、やはり俺たちは旧教軍を見逃すことはできない」
「おかしいよ!キリスト教同士の戦いなんて間違ってるよ!」
「同士じゃない!あいつらは悪魔だ」
「そうですよ。神を騙る悪魔です」
「悪魔…?」
「そうだ。悪魔だ」
俺が見たのは悪魔だったの?
悪魔は神の姿をしているの?
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