102人が本棚に入れています
本棚に追加
「キレイな月」
「そだね」
**side Shaun**
しばらく北の街に滞在しようと言ったのはカナリーだった。
マークを思いやっているんだな。
「満月だね」
「昨夜が満月だったでしょ」
「それじゃあ、今夜の月は何?」
「さあね」
マークとカナリーの会話は、数年前の俺とマジュンを思い出させる。
マジュンもこの月の名前を知りたがっていたな。
「ショーンちゃんなら知ってる?」
「知らねぇ。つか、“ちゃん”はやめろって」
「また言われてやんの」
「ごめんね。ショーンちゃん」
「お前とは、この先もずっと言い合っていると思うわ」
変わらない幸せもある。
マークとカナリーと俺。
このままで居たいと願う俺がいる。
一度流れを止めてしまえば、再び流れることは出来ないと知っているのに。
「温泉っていいね」
「泳いじゃダメですよ」
「ぶぅー」
「お前、艦隊でも海にダイブしているらしいな」
「気持ちいいよぉ~♪」
「クジラの餌になっちゃいますよ」
「いやんッ」
海がそんなに好きなのか。
マークが陸に戻る時は、ストランドが復興する時。
見たか。
あの惨状を。
あの土地に人が住めるようになるのは遥かに先のことだろう。
俺たちが生きている間に、人々の笑顔が戻る日が来るのだろうか。
停戦中ということは、また戦が始まる恐れを否定できないのだから。
「河原の方に篝火が見えるよ」
「篝火?」
「あっちだよ」
マークの指差す方向に目を凝らすが、それらしきものは見えない。
月明かりをもってしてもただの暗闇だ。
「お前の目は千里眼か?」
「大イングリッド艦隊を舐めちゃいけないよ」
「マークが見えるって言うんだから、何かを燃やしているのでしょうね」
「だから篝火だって。人が集まっているんだよ」
「集会とかなら面倒だな」
「確かに」
「知らんぷりしとこうね」
何故、集会だと決めつけてしまったのか。
ジプシーとして育った俺が、なんたる失態。
やはり、滞ってしまえば腐るしかないのか。
流れていたいと願えども…。
最初のコメントを投稿しよう!