The Wilderness

9/10
前へ
/46ページ
次へ
「宿の主人から聞いた話だけど、街で一番大きな宿に高貴な身分のヤツが滞在しているんだって」 「高貴な身分?」 「主人も詳しくは聞いていないようだけど、かなり高貴な御方に違いないってさ」 「誰だろうね。ショーンちゃんの知り合いとかじゃない?」 「ウチの?違うだろ」 一族なら俺の耳にも入るはず。 他家でも有り得ない。 なぜなら此処まで来るとなれば長期滞在だろう。 しかし、宮殿内で通行証を発行した話は聞いていない。 「他国の貴人だ」 「他国の?」 「おそらくは旧教徒だろうな」 「旧教徒が何のために?」 「それは分からん」 分からんが。 胸騒ぎがする…。 我がイングリッドは自由貿易国家であり、異国人も多く見掛けられる。 旧教徒がいても不思議ではない。 宮殿のある都は警備が厳しいが、このような北の街では商いを重んじ、異国人の往来を許可している。 元はストランド領内の湯治場として栄えたことも、この街の歴史を語る要素の一つとなる。 商人に扮して紛れ込む旧教徒も少なくはない。 しかし、停戦中の今はその必要もないはずだが。 「一番大きな宿と言ったな」 「乗り込みます?」 「でも、警備が厳しいと思うよ」 「異教徒が我が国で、しかも都から離れた北の地で何をしやがる!見逃せないぞ」 「ショーンちゃんの言うとおりだね。行ったれぇ!!」 「話は最後まで聞けよ」 「ふぇ?」 あ…。 早とちり!? 「二人だけだってさ」 「二人?」 「警備なしってこと?」 「立派な馬車だからかなりの身分だと思う。けど、警備はいない。お忍びだろうって」 旧教徒のお忍び旅行ってか。 一体何のために? 「気になることが1つ。昨日の早朝から丸一日留守にしてたんだとさ」 「何処へ出掛けたかが問題だな」 此処を起点に丸一日か。 昨夜は何処で夜を明かしたのだ? …馬車!? 「あっ!!カナリー、スゴい情報だな」 「何?ショーンちゃん何か分かったの?」 「鈍いねぇ。よく考えてみなさいよ」 「えー?なになに?」 「此処を起点にするってことは、我々と同じ目的って考えるのが妥当でしょ」 「ストランド!?」 「だろうな」 旧教徒の貴人がお忍びでストランドへ? 開戦が近いのか!? 誰だ。 一体誰なんだ。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

102人が本棚に入れています
本棚に追加