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「宿の主人から聞いた話だけど、街で一番大きな宿に高貴な身分のヤツが滞在しているんだって」
「高貴な身分?」
「主人も詳しくは聞いていないようだけど、かなり高貴な御方に違いないってさ」
「誰だろうね。ショーンちゃんの知り合いとかじゃない?」
「ウチの?違うだろ」
一族なら俺の耳にも入るはず。
他家でも有り得ない。
なぜなら此処まで来るとなれば長期滞在だろう。
しかし、宮殿内で通行証を発行した話は聞いていない。
「他国の貴人だ」
「他国の?」
「おそらくは旧教徒だろうな」
「旧教徒が何のために?」
「それは分からん」
分からんが。
胸騒ぎがする…。
我がイングリッドは自由貿易国家であり、異国人も多く見掛けられる。
旧教徒がいても不思議ではない。
宮殿のある都は警備が厳しいが、このような北の街では商いを重んじ、異国人の往来を許可している。
元はストランド領内の湯治場として栄えたことも、この街の歴史を語る要素の一つとなる。
商人に扮して紛れ込む旧教徒も少なくはない。
しかし、停戦中の今はその必要もないはずだが。
「一番大きな宿と言ったな」
「乗り込みます?」
「でも、警備が厳しいと思うよ」
「異教徒が我が国で、しかも都から離れた北の地で何をしやがる!見逃せないぞ」
「ショーンちゃんの言うとおりだね。行ったれぇ!!」
「話は最後まで聞けよ」
「ふぇ?」
あ…。
早とちり!?
「二人だけだってさ」
「二人?」
「警備なしってこと?」
「立派な馬車だからかなりの身分だと思う。けど、警備はいない。お忍びだろうって」
旧教徒のお忍び旅行ってか。
一体何のために?
「気になることが1つ。昨日の早朝から丸一日留守にしてたんだとさ」
「何処へ出掛けたかが問題だな」
此処を起点に丸一日か。
昨夜は何処で夜を明かしたのだ?
…馬車!?
「あっ!!カナリー、スゴい情報だな」
「何?ショーンちゃん何か分かったの?」
「鈍いねぇ。よく考えてみなさいよ」
「えー?なになに?」
「此処を起点にするってことは、我々と同じ目的って考えるのが妥当でしょ」
「ストランド!?」
「だろうな」
旧教徒の貴人がお忍びでストランドへ?
開戦が近いのか!?
誰だ。
一体誰なんだ。
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