Horror Killer

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 茶色い目から赤の色素が急速に抜け、代わりに青が入り込む。勝利はピアノ線を巻いた手をぐっと握ると手近な窓を蹴破った。ガラスの割れる音と風が入り込む音が同時に響く。  既に勝利の自意識はほとんど眠っていて、ビバルディとしての性(さが)が表に出てきていた。過呼吸でクラクラとする意識を酸素を吐き出してやる事で保たせる。迷わず割った窓から飛び出した。  口ずさんだ歌が見えないクッションを作り、勝利を無事に地面へと着かせる。上空を見上げれば、黄金の月をさえぎって黒い物体が飛んでいた。  全体的な構造は人間に似ている。しかし頭部は不自然に肥大化している上に二つもあった。どちらも口をストロー状にしていて、四つの赤い瞳をこちらに向けている。住み家を破壊されて憤っているのだろう。蝙蝠のような羽をはばたかせ、細い手足をギチギチと動かし、殺気を放っていた。  勝利はにぃっと笑うとピアノ線を伸ばした。さらに追加で数本、同じ長さに切ってやる。指の間からいくつもの糸をまっすぐに伸ばしている様は、見ようによっては爪を生やしているように見えるだろう。  不快な金切り声を上げながら急降下してくるそれは、ストロー状に束ねていた口を広げて無数の牙を剥き出しにする。勝利はピアノ線の端を足で押さえると、左手で一斉に弾いた。
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