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『ではもう大丈夫なんですね?』
『はい、おそらくは。念のためにもう数日ほど滞在しますけど、まず大丈夫だと思います』
翌朝、戻ってきた教会で勝利はクリスティーナに詳細を報告していた。ナイアルラトホテップの眷属はどれも他のアヤカリを食い散らかして成長する。あの後探ったところ、他に怪異はいなさそうだったから、もう大丈夫だろう。
クリスティーナはほっとしたように微笑んだ。
『ありがとうございます。これで村の皆も安心して暮らせます』
『どういたしまして』
こうして礼を言われると狩人やっててよかったなー、と思える。ビバルディとしての信念もあるが、勝利はこのために狩人をやっていると言ってもよかった。笑顔は何にも勝る宝だと思う。
『……あ、そういえば』
ふと、思い出した事があった。
『クリスティーナさん、ヒマントロフスさんって知ってますか?』
クリスティーナは少しだけパチパチと瞬きをしてから、雪解け水のような微笑みを浮かべた。
『はい。以前、この村を助けてくださった方です。お会いになられたのですか?』
『ええ、まあ』
『……近くまで来たなら寄ってくださればいいのに……』
クリスティーナはせつなげに眉を寄せたが、それ以上は何も言わなかった。勝利が来る以前に、勝利が立ち入ってはいけない話があったのだろう。勝利とクリスティーナはあくまでクライアントと狩人の関係だ、必要以上の深入りはよくない。
改めて祭壇を見る。古びた女神像が心なしか微笑んでいるように見えた。
おしまい。
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