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『それで、被害はどんな感じなんですか?』
『軽傷がほとんどです。お二人ほど重症の人がいますけど、町の病院に入院する程度で済みました。……でも、お一人亡くなっています』
海沿いに作られた、古びた漁村の中で唯一石造りの建物である教会。その中で青年と少女は長椅子に座って話していた。
『亡くなられた方の遺体を見る事は出来ますか?』
たどたどしい英語で青年が聞く。少女が頷くと、長い金のおさげが揺れた。
『どうぞ、こちらです』
少女が立ち上がり、祭壇の横にある扉を開けた。一瞬遅れて青年も少女の後に続く。
扉の向こうには下り階段があった。ランプを片手に少女はひんやりとした地下へ下りていく。
そこは遺体を一時的に安置するところのようだった。近代に入ってなお、土着宗教を信仰しているこの村の習慣のようなものだと聞いている。地下に一時的に遺体を置き、神の加護を得てから土葬するらしい。
置かれた棺の内、一つを少女は指差した。
『ここに被害者の方がおられます』
『開けてもいいですか?』
『事件解決に繋がるのであれば構いません』
本当は開けさせたくないのだろう。青年も自分の家族の遺体を進んで他人に見られたいとは思わない。一礼してから青年は重い石のふたをずらした。
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