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中にあったのは確かに遺体だったが、よく想像されるそれとは様子が違っていた。一言で言えばミイラのようなのだ。
『……失礼ですが、この方の歳は?』
『三十二歳です』
それなのに遺体はしわがれた肌をしていて、水分が足りていない。死んで時間が経てばこうなる事もあるだろうが、それとは明らかに違う。ランプを借り、遺体の首元を照らせば二つの小さな穴が開いていた。
『……分かりますか?』
『この手の吸血行為を行うアヤカリはそう少なくありません。ヴァンパイアでなければ……』
青年はそこで口を閉ざした。しばらく遺体の傷痕を見てから、棺の蓋を閉じる。
『ありがとうございました。これから調査に入ろうと思います』
『もう分かったんですか?』
『まあ、こういうのは慣れていますから』
少女と連れだって安置所を出る。教会を出る前に女神の像が飾られている祭壇を見た。
宗教とは信仰の集合によるフラクタルの結晶だ。キリスト教や仏教の司教が力を持つのは膨大な信仰力の賜物に過ぎず、彼らが崇める神に現実に干渉する力はほとんどない。だが土着の古い宗教は現(うつつ)に近い神や精霊がいるはずで、彼らが立ち向かえないという事は、すなわち。
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