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ここに住んでいるのが普通の人間だったらどうしよう、などと今さらな事を考えつつ、中に入る。
伯爵が住んでいただけあって内装はなかなかのものだった。ほこりが積もっている箇所もあるが、多くは掃除が行き届いている。やはり何かが住んでいる事に間違いはない。
「んー……」
時間をかけ、一通り部屋を見て回ったが、それらしき影は見つからなかった。もしかして外出中なのだろうか。だとしたらしばらく待ちぼうけをくらわなくてはなるまい。
そう思いつつ最後の部屋の扉に手をかけようとしたところで、向こうから扉が開いた。
「ん?」
「お?」
寝室らしき部屋から出てきたのは、リボンが巻かれたシルクハットを目深に被った少女だった。血色の長髪が目を引く。彼女は「ふむ」と小さく首を傾げる。
「失礼ながら、先ほどの轟音は君の仕業か?」
「え、あ、そうだけど……あんたは?」
アヤカリのようには見えないが、人間とも雰囲気が違う。少女は首の角度を元に戻すと膝を少しだけ曲げて一礼した。
「私はヒマントロフスという。君の名は?」
「あ、あーっと……ビバルディ、だけど」
仕事用の名前を名乗って、ようやく勝利は日本語が通じている事に気付いた。日本人のようには見えないのに、流暢に話す。
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