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東京都。
上空ではぎらぎらと太陽が光り、地上では人が蟻の様に所狭しと闊歩している。
広くて狭いこの街には、様々な人種の者がいた。
光と闇の境界線は曖昧になり、たとえ表舞台にいる人間といえども簡単に裏社会へ、のめり込める。最初は仄暗い闇夜。だが、踏み込めば踏み込むほど闇は暗さを増していき、最後には自分の輪郭すらわからないような暗黒になる。
そんな光陰を内包したこの街で、やはり群衆にまぎれた2人の男女。
男は、中肉中背。少し薄くなった頭に、老獪さを備えた顔は、本来の年齢よりも男を年上に見せる。
彼は薄茶の外套を羽織り、女の前を歩いていた。
女は、細長い体つきを強調するタイトなスーツに身を包んでいる。女性にしては背が高く、顔つきは整っているが何分、化粧っけが無かった。
後ろで束ねた黒い長髪を揺らし、男の後を追う。
「タケさーん」
女───佐生拓未は前を歩く男に声をかけた。
「あぁ?」
男───武中正弘はそれに応える。──"応える"というにはあまりにお粗末な返事だが──
「私達、今どこへ向かってるんですか?」
「佐生なぁ。お前ぁ出る時に俺の話、聞いてなかったのか?」
「聞いた気はするんですけど……」
「お前の記憶力の無さは刑事にゃ致命的だぞ」
呆れた様に言った武中に佐生は、へへへと苦笑いした。
武中もつられて笑みをこぼすと、宙を見つめ話し出す。
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