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「いや………その、なんですか……………違うんですよ。アレですよ。アレ」
「アレってなんだよ」
身ぶり手振りを付けて慌てふためく佐生に、武中は問い掛けた。
きちんと言えば良いのだ。言ってしまえば。常日頃から思っている事。言いたかった事。
これは良いチャンスだ。
「…………あの……ですね」
「あぁ」
川の真ん中に置かれた石を水が避けて流れるように、2人の周りを人々が歩き過ぎて行く。
「……あの」
照れ臭さ、とかそういったものが飛び立とうとする佐生の言葉の足を引っ張る。
「む、娘さんは、お元気ですか……?」
何を言っているんだ。
「あ?あぁ…………あぁ、元気だな。折角、大学に入ったというのに遊び呆けやがってる」
「そ、そうですか。なら良いです」
佐生は小刻みに頷いた。
言えなかった。少しの後悔。だが大丈夫。まだ先は長い。武中とのコンビも、もうしばらく続くだろう。
「本当に大丈夫か、お前」
「もういいじゃないですか。早く行きましょう!死体が逃げますよ!」
「死体は逃げん!逃げるのは犯人だ!」
武中はそう怒鳴ると、前方をずんずんと歩いて行く佐生の後を追った。
………
………
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