12人が本棚に入れています
本棚に追加
………
……
…
「はああぁーあー」
盛大な溜め息を吐き出しながら、佐生は自室のベッドに倒れ込んだ。
黒のスーツ。仕事着のままで体をごろごろと揺らす。
今日は酷い日だった。
武中とは気まずいまま現場に到着し、気まずいまま検証を済ませ、気まずいまま署に戻り、気まずいまま帰宅した。
ずっと気まずいままだった。
「大体、なんであそこで娘の話にするかなー」
佐生は、悔恨の言葉と共に自分の頭を枕に勢い良く埋めた。
鼻が少し痛む。
あのまま言ってしまえば良かったのだ。どうせ素面では滅多に言えないし、酔った時に言ってもきっと覚えてはいない。
「多分、何言うつもりか気付いてたよなー。あぁーうぁあー。
いやーでも気付いてなかったかもしれないなー。あの人、鈍いから」
だから離婚なんてする羽目になるのだ。
うつ伏せに寝転がった佐生は、鼻を鳴らすと立ち上がった。
「もう呑むしかねぇ」
上着を椅子の背もたれに投げ掛け、ネクタイを緩める。
身軽になった佐生は、屈んで冷蔵庫の扉を開けた。
内側から白色の光が顔を照らす。
いつかの食べ残し、お土産にもらった瓶詰め、謎のスポーツドリンク。そういった山々を一瞥すると、その中から缶ビールを取り出した。
冷たくなったそのアルミを額に付けながら、後ろ足で扉を蹴り閉める。バタンという音と、ばたばたと冷蔵庫の中身が崩れ落ちる音。いつも加減を間違える。
最初のコメントを投稿しよう!