【承前】佐生拓未の場合

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……… …… … 「はああぁーあー」 盛大な溜め息を吐き出しながら、佐生は自室のベッドに倒れ込んだ。 黒のスーツ。仕事着のままで体をごろごろと揺らす。 今日は酷い日だった。 武中とは気まずいまま現場に到着し、気まずいまま検証を済ませ、気まずいまま署に戻り、気まずいまま帰宅した。 ずっと気まずいままだった。 「大体、なんであそこで娘の話にするかなー」 佐生は、悔恨の言葉と共に自分の頭を枕に勢い良く埋めた。 鼻が少し痛む。 あのまま言ってしまえば良かったのだ。どうせ素面では滅多に言えないし、酔った時に言ってもきっと覚えてはいない。 「多分、何言うつもりか気付いてたよなー。あぁーうぁあー。 いやーでも気付いてなかったかもしれないなー。あの人、鈍いから」 だから離婚なんてする羽目になるのだ。 うつ伏せに寝転がった佐生は、鼻を鳴らすと立ち上がった。 「もう呑むしかねぇ」 上着を椅子の背もたれに投げ掛け、ネクタイを緩める。 身軽になった佐生は、屈んで冷蔵庫の扉を開けた。 内側から白色の光が顔を照らす。 いつかの食べ残し、お土産にもらった瓶詰め、謎のスポーツドリンク。そういった山々を一瞥すると、その中から缶ビールを取り出した。 冷たくなったそのアルミを額に付けながら、後ろ足で扉を蹴り閉める。バタンという音と、ばたばたと冷蔵庫の中身が崩れ落ちる音。いつも加減を間違える。
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