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「…それで、どうされたんですか?彼女」
志穂、となんとなく気軽に口に出来なかった私がそう濁しながら尋ねると、西村さんも声を少しだけ潜めて言った。
「俺達が分からないようなんです」
「え…?」
「先生の見立てでは、高校時代以降の記憶がごっそり抜けているようだ、と」
「そんな、まさか…」
映画やドラマじゃないんだし、と続けることが出来なかったのは、彼のその悲壮感に満ちた表情と先ほど私自身が感じたあの違和感だった。
古い友人のはずの私を見るあの志穂の瞳に宿っていた甘さは――。
『大切な恋人』へと向けたものと例えると、しっくりと填まってしまった。
「まさか…」
茫然とする私に西村さんは気まずそうにコーヒーを啜っていた。
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