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自然体で。不自然に見えないように、と注意して歩き出し。
病院の敷地から離れ、拾ったタクシーに乗った時には緊張が一気に体から抜けていった。
バッグから携帯を取り出し、コールする。
会社にまだ残っている同僚へ。
『松原さん?』
すぐに返ってきた返事に、私は今から会社へ戻るべきか直帰するべきかを問う。
松原さんは早退扱いだから、帰っていいですよと相手は電話越しに笑った。
そして、砕けた口調で続ける。
『今、私も帰ろうとしてたの』
『…そ、か。…ねぇ』
私が言葉少なに呼び掛けると、受話器の向こうで笑みに艶が増したのが分かった。
『……分かった』
うん、じゃあ後でね。
向こうから電話は切れた。
夜の街の隙間を縫うように、タクシーは私のマンションへと走り続ける。
携帯の画面に表示された『日比野なみき』の文字が消えるまで、私はぼんやりとしていた。
会社の同僚であり、今現在、私の恋人候補のようでパートナー未満のような…穏やかで気だるい関係を持った彼女は、手土産にまたあの屋台のたこ焼きを買ってくる気がして。
何故か少しだけ。
日比野さんに罪悪感に似た感情を抱いた自分にため息が出た。
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