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さて。少し話しを戻すと、私は一人で愛用のノートを開き、当時書いていた自作の恋愛小説の続きを書くのに夢中だった。顧問の先生から、その年の文化祭には、手づくりながら活字の文芸誌を出す約束を頂いていたので、少しでもいいものを作りたかったし、一番の趣味で唯一の個性といってもいい『小説を書くこと』は直ぐに私をめろめろに蕩かした。だからその日も、自習のプリントをさくさく終わらせたら、いそいそとノートに向き合ったのだ。
…上から降って来た影と視線に気付くまでは。
あ。と顔を上げれば、あまり話したことのなかったクラスメートの女子。セミロングの髪に、銀縁眼鏡がいかにも優等生で、だけどその眼が悪戯っ子のように輝いていた。
谷口志穂。今は苗字が変わってしまった彼女との久しぶりの再会が病院でだなんて――。
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