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その言葉のもつ甘い響きに、私はようやく金縛りから解けた。
「あ…、志穂」
笑顔を作りながら、彼女の家族の事を気にして目を逸らす。志穂はそれが気に入らないらしく、唇を尖らせてむくれ顔になる。
「志穂、あんたね、」
「ちゃんと呼んでよ、約束でしょー?」
「約束って…」
(何年前の話してんの!)そう言いかけて、私はちらりと西村さん達を見遣る。
小唄ちゃんは西村さんに抱きついて泣き止まず、西村さんも困惑の表情で私を見ていた。
私自身、どうしていいか分からなかったけど、ともかく一番手っ取り早く状況が変わるようにナースコールを押す。
「西村ですが、目を覚ましました」
はい、今行きますと簡潔な返事があって回線は切れた。
そして彼女がまた口を開く前に私は笑顔を張り付けて言った。
「先生達すぐ来るから」
だから安心して、志穂。
彼女が訝しそうな顔をして、ちらりと自分の家族を一瞥したときに医師と看護師はやってきた。
そしてそれと入れ違いに私は病室を出た。
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