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はあ、と重い息を吐いて。私は廊下を進んで自販機の前に着いた。
自覚していた以上に動揺していたらしい。紙コップのコーヒーは、もう甘過ぎて飲めないミルク・砂糖入りを押していた。
「ショコラ…」
もう二度と志穂の口からは聞けないと思っていたその『呼び名』を舌に乗せてみた。
出会いの高校時代からもう十年以上経っている。
次に会うのは来年あたり、同窓会行くよねと彼女からメールが来たのは先週の終わり。その連絡だって三ヶ月ぶりだった。
(イマサラ、だ…)
私は独身だけど、志穂は結婚して子供もいる。
その式にも出席したし、小唄ちゃんが生まれたときには産婦人科の病院に見舞いに行った。
彼女と特別な間柄になり、それを解消して約五年経った。それから更に二年経って彼女は家族を手に入れて。
それから綱渡り…いや、細い糸を渡るようなペースで、メールでの連絡だって月一あればいいような薄くて軽い友人関係に落ち着いて。
それで十分満足していた、と自分では思っていた。
もう志穂は私より大事で大切な繋がりを手に入れて。私はそれを見届けて、少しずつまた繋がりを細く割いて。そのうち思い出の一部になっていくのだと覚悟していた、のに…。
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