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「行ってらっしゃい。元気出してね!」
明るい母の声に背中を押されるようにして家を出た聖は、半ばヤケクソで無理矢理朝食を詰め込んだ胃を押さえ、軽く深呼吸してから歩き始める。
家から学校まで、徒歩30分。
自転車ならば、10分程で着く距離だ。
寝不足続きで、日毎だるさの募る身体は、自分にだけ余計な重力がかかっているのじゃないか?と思う程、重く感じられる。
既に通い慣れた筈の道のりが、果てしなく遠く思えてくる。
靴底をアスファルトに引きずるようにして歩いていた足を止め、自転車で行こうか?と思ったが、すぐに諦めた。
夜中の訪問者が現れるようになって以来、自転車に乗ると必ず転倒、もしくは、電柱や人にぶつかるのだ。
それは、霊の仕業ではなく、寝不足による注意力の欠如が原因だった。
余計な怪我をするくらいなら、歩いた方がマシだ。
どんなに時間がかかろうと、いづれ辿り着ける。
いや、その前に、行き倒れてしまうかもしれないな、と思う。
世間では、働き詰めで死を招く「過労死」というのがあるが、寝不足で疲労が溜まり、死に至ってしまった学生の場合は何と言うのだろう?
単に「ストレス」とか「身体が弱かった」という一言で片付けられてしまいそうな気がする。
霊に憑かれたのならともかく、憑かれもしないのに、単なる寝不足で死に至る。なんて、絶対に嫌だ。
そんな事を考えながら、赤信号の交差点で信号待ちをしながら欠伸をする。
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