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霊力のある坊主や霊媒師のように、除霊したり清めたり出来れば話は違ってくるのだろうが、その為に、どこかに籠って修行を積むだの、何の事やらさっぱりわからない呪文のような祝詞を暗記するなんて事は願い下げだ。
結局、詰まる所、今の現状に耐えるしかない。
溜め息をつき、再び重力に従って下がり始めた瞼と格闘しながら歩いていた聖は、突然背後からヌッと伸びてきた腕にギクリとして身をすくませた。
先刻のが、追い掛けて来たんじゃ……!
そう思った次の瞬間、ヘッドロックをかけられ「ぐえっ」と呻いた。
「おっはよー!セイちゃん!元気なさすぎだぞー!」
弾んだ声が、聖の頭の上の方で響く。
聞き覚えのあるその声から正体を察した聖は、安堵と疲れの混ざった溜め息をついた。
「どうしたんだ?霊感少年。また変なモノでも視たのか?」
聖を腕の呪縛から解放し、横に並んだ同級生の境谷 翔太が、冗談混じりに笑って言う。
「忍び寄るなよ。変なモンに憑かれたかと思うだろーがぁ…」
一気に気が抜けて、力の入らない声で抗議する。
「そうか?悪い悪い!あんまり暗~い歩き方してるもんだからさぁ、気合い入れてやろうと思って!」
謝りながらも、全く悪びれる風もなく「あっはっはっ」と笑い飛ばす。
ノリは体育会系だが、所属はインテリな科学部だ。
「お前ねー、俺にとっちゃ笑い事じゃ……」
言いかけた時、たったったっと走って来る足音がしたかと思うと、勢いよく後ろから肩を組まれ、聖は言葉半ばに前につんのめる。
危うく転びそうになったところを引き戻された聖の顔を、やんちゃ坊主をそのまま成長させたような、悪戯好きそうな顔をした同級生、菅原 和徳がニッと笑って覗き込んだ。
「なんだなんだあ?朝っぱらからシケた面してんじゃねぇぞぉ!」歯切れの良いハツラツとした声は、からかうような笑いを含んでいる。
こちらは、正真正銘体育会系。サッカー部だ。
「ちゃんと朝メシ食ってきたか?しっかり食わねぇと、ちっこいまんまだぞー!」
笑って言いながら、聖の頭をポンポンと叩く。
「…和徳、ぶん殴るぞ」
最大のコンプレックスに触れられ、聖はムッとして和徳を睨め上げた。
この二人とは幼稚園からの付き合いで、気心の知れた仲だ。
聖の霊感についても、「視えるものは仕方ないよな」と、一応それなりに理解はしてくれている。
が、半信半疑というのが正直なところだろう。
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