人間、苦い思い出の1つや2つあるんです!

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見つめてから3秒ほどしてようやく気付いたようだ。徐々に目が開いて下唇が震え出す。 「……う、嘘でしょ? 嘘だよね? まさか、そんな……」 「………」 「きっ、キー君ッッ!!」 ダッ! と床を蹴って杏奈は走って行った。 大慌てで傘立ての中から引っ張り出されたのは、やはり雄介だった。それも頭も服も血まみれ。意識は失っているようで全身がぐったりしている。 「キー君! キー君!!」 眼がしらに涙を浮かべて何度も雄介に呼びかける杏奈。 胸の奥が締め付けられる。か細い声が口からこぼれる。 「雄介……雄介……」 「悲しむのは後です。とにかく今は早く警察と救急車を呼ぶのが先決です」 毅然とした声でそう言った汐音さんは体を起こし、踵を返す。 リビングに置いてある電話を使う気なのだろう。ドアを開けて中に入り、電話の子機を持って戻ってきた。 「おいおい黒髪ロングちゃん。何と何を呼ぶって?」 同時に、あの男の声が、鼓膜を叩いた。 直後、背筋に寒気が駆け上った。 汐音会長の顔が、ゆっくりとこちらに振り返ろうとする。そんなまさかと思いつつ、私もそちらに顔を向ける。 立っていた。 倒れていたはずの金髪が。何事もなかったような。ケロッとした顔をして。 「警察と救急車って聞こえた気がするけど、まさかそんなわけないよなぁ? 周りを見ろよ。どこにそれを呼ぶ必要があるっていうんだい?」 「………」 「兎にも角にもこれで3人になったわけだ。風ちゃんは後から来るのかな? まあいいや。先にどこに出かけるか、3人で話し合おうじゃ──」 「来ないでください!」 悠々と歩いていた金髪に、汐音会長が言い放つ。 「それ以上近づいたら、本当に警察を呼びます。大声も出しますよ」 会長の声はわずかに上ずっていた。表情は険しいままだったが、内面ではかなり臆しているのだと思う。 金髪の男はやれやれと言った感じで片手で後ろ髪を引っ掻きながら、 「……勘弁してくれよ。なあ黒髪ロングちゃん? 確かにオジサンは強面な見てくれだ。そいつは認める。だけど人を見た目で判断しちゃいけねぇって親に習わなかったかい? これでもオレぁ税金を納める善良な市民だぜ?」 「相手を血まみれになるまで傷つける人を善良な市民とは言いません!」
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