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「ちょっとお萩ちゃぁぁぁん! 俺の格好いい登場シーンを台無しにしないでくれよォォ! あれほど打ち合わせ通りにやってって言ったじゃないかァァ!」
まるで子供みたいに両腕をぶん回して泣き叫ぶ浩二。
そんなくだらない理由で半ベソになっていたのか。口には出さないでおいてやるけど、ちっとも格好よくなかったぞ。色々と無理し過ぎで、一言で言えば超ダサかったぞ。
そんな事を思っていると、助手席の岳人は嘆息を漏らして、
「うるさい泣くな。あんな恥ずかしい真似を一緒にできるか」
「恥ずかしくないですぅー。子供たちが一緒に真似するくらい格好よかったですぅ―!」
「ああそうかい。……しかし万が一にも子供がそう思うとしてもだ。僕はキミの茶番に付き合うつもりはないし、そんな事をしている時間はない。早く車を出せ」
「いやんいやん! こんな中途半端な感じじゃ出せません! やり直し! やり直しを所望する!」
「おい。話を聞いていたか? やり直しをする時間は――」
「いやんいやん! やり直ししないなら出発しません! 絶対に!」
車のキーを抜くと、両腕を組んでふんぞり返る浩二。本当にさっきのをやり直さないと車を出さないつもりらしい。
子供達と相手をしているうちに脳が子供と同じレベルまで落ちたのかこいつは……
どうでもいいから早く出せ、と俺の中でイライラが募り始める。式に間に合わないかもしれないという焦りが加わってイライラはさらに加速し、貧乏揺すりとなって現れる。
説得する時間も惜しいし、こうなったらやつを運転席から追い出して、キーを奪って式場を目指すか、などと考えていると、
「……なあ上野」
ポンポン、と岳人が浩二の肩を軽く叩く。
「今回霧島の結婚式にいくらかかっているか、キミは知っているかい?」
「知らん! ……けど、たぶん50万くらいじゃねぇの?」
「全然的外れだ。まったく、キミは結婚式を甘く見過ぎだ」
「んなこと言われたってしょうがねぇだろ。結婚式にいくらかかるとか今まで1回も考えた事ねぇんだから。……それで? いくらかかってんだ?」
「さっきキミが言った数字のおよそ10倍だ」
「10……ってことは500万かよ!?」
嘘だろ!? と振り返った浩二が信じられないと言いたげな顔をして俺を見る。
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