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独り言を叫ぶように言う浩二の目は本気になっていた。何が何でも、という感じがひしひしと伝わってくる。
……やべ。追い詰めすぎてなんか変なスイッチが入っちまったぞ。
背中に悪寒が走り、俺は慌ててシートベルトを締める。
指示器を出して、いざ出発、というタイミングで俺と同じく嫌な予感を感じ取ったんだろう。
「上野。いくら急いでいるからと言っても交通ルールは守るんだぞ。いいか? 警察のご厄介にだけは──」
と、岳人が言いかけたその上から浩二が、
「分かってるっつーの」
当然のように言ったんだ。
「警察に捕まらないよう……最高速度でぶっ飛ばすッッ!!」
ギュルルルルル! と4つのタイヤが激しく回転。赤いオープンカーが急発進する。
3秒もしない間にスピードメーターの針は140キロを指していた。
「飛ばすぜオラアアアアアアアアアアアアアア!!」
「あああああああ安全運転してくれぇぇええええええええええ!!」
─────────
そんなわけで、俺達はパトカーに追われていた。
『繰り返す! そこの赤いオープンカー! 速やかに道路脇に止まりなさい! 止まりなさい!!』
後方から聞こえるのは凄味のある男性警官の声。止まりなさい、という同じ台詞を何度聞いた事か。10回を越えた辺りからは数えていない。
あーあ。もう。なんてこった。
嫌な予感は見事に的中。警察に目を付けられた。これで捕まれば、いや、たとえ捕まらなかったとしてもこのまま式場までついてこられたら全部パァだ。
ふっ、と自嘲的な笑みを浮かべて俺は言う。
「……岳人ぉ。俺もう駄目かもしれない」
きっと俺は今死んだ魚みたいな目をしているだろう。涙が止まらない。周囲の景色が移り変わるのと一緒に俺の気持ちは絶望へと落ちていく。
すっかり弱気になった俺に、岳人は、
「かもしれないな」
と簡素に返事を返してくる。こんな非常事態だというのに、岳人は落ち着いていて(あるいは現実から目を背けているだけなのか)ケータイを弄っていた。
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