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「まあもう起きてしまったことだ。いつまでもくよくよ嘆いていても仕方がない。これからどうするかを考えよう」
淡々とした口調で岳人が言う。
「現在時刻は11時24分。つまりあと36分以内に式場に到着しなければ結婚式は中止になる訳だ。しかし、上野が死に物狂いで車を走らせてくれたおかげであと10分ほどで着きそうだ」
「後ろにパトカーを引きつれてだがな。たとえ到着が間に合ったとしても、式を挙げる前に俺達3人とも警官に御縄されて、翌日には面白逮捕劇としてお茶の間を沸かすことになっちまう」
「ああ。だからそれまでにどうにかあのパトカーを振り切らないといけない訳だが……」
そこで会話は止まり、しばし聴覚に意識を傾けると、
『止まりなさい! 止まっ……止まれって言ってるだろうこのクソガキ共がゴルぁぁアアアアアアアアアアアアアアアア』
とうとう堪忍袋の緒が切れたのか、パトカーに乗っていた警官が体裁を踏み倒して乱暴に怒鳴り散らす。
すると浩二はそれに挑発されて、
「うるせぇボケェェ!! こっちは500万がかかってんだ! まだ車のローンが6年も残ってるのに、そんな借金して堪るかよォォオオオオオオオオオオオオオ!!」
と、一瞬首を振り返らせて叫んだ。たぶん聞こえていないと思うのだが、一向にスピードを落とす様子を見せない――むしろまたさらに加速したため俺達に止まる意思はまったくないと感じ取ったのだろう。警官は『すぐに牢屋にぶち込んでやるからな!』と吐き捨てて、パトカーのスピードを上げた。
街中で繰り広げられるカーチェイス。両車のエンジンは共に雄叫びような音を轟かせる。前に車が走っていると、車線変更を繰り返して一瞬でぶち抜き、交差点で曲がる時は一切スピードを落とさない。そのため曲がる度にタイヤが、ギャギャギャギャギャッ!! と絶叫する。
まるでF1レースに出ているようだった。非常識としか思えない荒々しい運転にもかかわらず、ここまで無事故で走り続けたこと、そしてここまで一度も信号に引っかかっていないことは奇跡と言っても過言ではないだろう。
右へ左へと揺らされながら、岳人はずれた眼鏡の位置を直しつつ、
「……ふむ。まさか上野にここまでの運転技術があったとはね。どうだ上野。後ろについて来る警察官と一緒にF1デビューしてみないか?」
「こんな時に転職案内してる場合か!!」
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