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空に向かってたからかに吼えて、2つ目の交差点の角を曲がったところでだった。
違和感があった。
それまで一瞬で視界から消えていた景色が、一瞬で消えなくなったのだ。最初はカーブ手前で浩二がスピードを落としたからかと思ったのだが、カーブを曲がり終わったのにもかかわらず、車のスピードは上がらない。むしろ落ち続けている。
しばらくすると、車のエンジンは止まり、完全に停車した。
何かおかしい。そう思った俺は背中を背もたれから離し、前のめりになって顔を前の座席の横に出す。
「浩二? 何やってるんだよ。遊んでないで早く行ってくれよ。もう時間がないんだからさ」
「………」
浩二がゆーっくりと振り返る。
焦点の合っていない瞳。漢字の『一』みたいに横に長く固く閉じた瞳。額からはそんなに熱くもないのに脂汗を垂れ流している。
……なんか、とてもバツの悪そうな顔をしていた。
「浩二? どうした?」
「……ご、ごめん」
と、浩二は声を震わせて謝罪すると――俺に告げた。
「ガソリン切れだ」
「………は?」
不意の一言に、俺は鼻で笑うように声を漏らす。こんな時に笑えない冗談を言いやがって、と思ったが、視線を浩二の顔から少し横へずらすとガソリン切れを知らせる警告ランプが点灯していて、ガソリンメーターの針はガソリンがないことを示す『E』を振り切っていた。
どうやら本当にガソリン切れのようだ……って。
「な、何でこんな事になってるんだよ。こんな時にガス欠とか、ありえねぇぞ」
「わ、悪い。空港からの帰りにどこかで給油するつもりだったんだけど、500万のことで頭が一杯ですっかり忘れてた。あはは……」
「笑ってる場合か! どうすんだよ!?」
「どうしよう……」
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