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完っっっ璧に無視された。
伸ばした右手を力なく下げて、俺は膝から崩れ落ちてガクゼンとする。
「そんな、馬鹿な……。俺、唯と、付き合ってるはずなのに……」
「きっと嫉妬ね」
「嫉、妬……?」
隣でしゃがみ込んでいた春乃さんが片手を頬に当てて手のかかる子供を見るような目をして言う。
「そう。たぶん君がお姉さんと仲良さそうに話してたのが原因ね」
「そんな事で?ちょっと喋ってただけなのに?」
「分かってないなぁ霧島君は。女の子は繊細で複雑なのよん」
何だかよく分からないが配慮が足りなかったということだろうか?
なんて考えているとすぐに唯が大きなゴミ袋を持って戻ってきた。
靴を穿いて睨むような目で俺を見ると、
「邪魔」
「ぶはっ!?」
俺の顔にゴミ袋をぶつけてきた。それも軽くではなくかなり思いっきり。
「じゃあ行ってきます。……あと、そこで倒れてる人。どーぞお姉ちゃんとな・か・よ・くしててください」
棘のある言葉の後、トコトコと歩く靴音が遠退いていく。
ヒリヒリする顔を上げると唯の姿はもうどこにもなかった。
「大丈夫?頭打ってない?」
「え、ええ。頭は打ってないですけど精神的にかなりのダメージが……」
心配してくれる春乃さんに、俺は自嘲気味な苦笑いを返す。
「俺……唯とやっていけるでしょうか。何となくコンビニに並んだ牛乳の賞味期限並のスピードで破局する気がします」
「気に病みすぎ。大丈夫よ。今のあなた達が分かれるなんて絶対にないわ」
「そうですかね」
「ええ。嫉妬はね、相手が好きの裏返しなんだから。お姉さんが保証してあげる。自信を持ちなさい。君は君が思ってる以上に魅力的なんだから!」
パァン!!と豪快に背中を叩かれた。
「ほらっ、いつまでもウジウジしない!男でしょ!?早く追っかけなさい!」
「でっ、でも追い付いても何を言えば──」
「そんなもん走りながら考えなさい。ほらっ行った行った!」
「痛っ!?……わ、分かりました行きます。行ってきます!」
力一杯尻を叩かれた反動で飛ぶように立ち上がった俺はマンションの廊下を走った。
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