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―――――――
「……ん、うめぇ」
「……そうか」
いきなり割り箸を懐から出したこの男はハンバーグに箸を伸ばせば持ち上げて、食べたのだ。
何気に、他の人に食べさせるのは初めてだったりする。思わず下を向いてしまった。ドキドキする。
「…ん?なになに、もしかして他の人に食べさせんの初めて?」
その問いを改めて考えればカァーッと顔が熱くなる。
「わっ悪いかぁ!」
「ハハハ、いやゴメンって。…こんなにんまいメシ作れんだから彼氏とかに作ってやりゃいーのに」
「かッカレ…!」
あわわ。ダメだ。私はこんな話しに免疫がない。ガールズトークなどしたことがない私には彼氏や付き合うなどの生々しい言葉はNGだ。
「へーいない…か。一回も?」
「……わ、わ…るいかぁッ…!」
ヤバイキョドってる自分がいる、自分には一生関わる事はないだろうと思っていた領域だ。
「じゃあ……なんで俺に食わせようとしたのかな?」
「……詫びだッ」
「…詫び?」
「あッ……朝の!………おまえ、何もやってなかったから……その…………」
精一杯考えて言葉を紡いでいくがペースを乱されていつもの感じに戻れなかった。
「…律儀だねぇ。それとオレの名前は、…朱月礼兎(あかつきれいと)。礼兎って呼んで?…氷」
「むッ!無理だっ!っていうか名前で呼ぶなッ!」
なんでコイツッ…朱月さんはここまで馴れ馴れしいのだろうか。名前呼びだけは阻止しなくてはいけない。
「そっかぁー…じゃ、連絡から始めようか」
よかった。なんとか折れてくれたみたいだ。朱月さんはポケットからメモを取り出せばスラスラと何かを書いていく。
「コレ、俺のケー番とアドだから。連絡して?」
そう言って私にくれた紙には確かにそれらしき文面があった。………私が、異性にコンタクト?
「…私、携帯キライだから」
「いーよ、待ってるから」
うー、ダメだ。断れない。
キーンコーンカーンコーン
「んぉ、もー終わりか。…じゃあ先戻ってんな。早く来いよ!」
そういえば朱月さんは軽快な足取りで屋上を降りていったのだった。
「……なんなんだ、アイツは」
わからない。わからないが………なんだか温かい気持ちになったのも、また事実だったりする。
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