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私の両肩を掴んだ朱月さん。とても必死そうで嘘偽りない瞳に見えた。
「…………………」
「…俺は何も事情とかわからねーし…ぶっちゃけ部外者だしさぁ……その、………首突っ込んで悪いとか思うけどっ」
「ついでに、学校一モテてカッコ良くてモジャっ毛ヘヤーで他人の世話好き。…だもんな」
「も、モジャっ毛....?」
朱月さんは自分の髪を手でいじってみていた。なんだか内心笑える。
「……その学校一人気者の貴方が、私の事を心配して下さらなくて結構です。」
「…………………」
キッパリ一刀両断してやった。
「…同情なら今すぐ出ていってください」
これでトドメだ。とでも言わんばかりにズバッと言い放った。大抵なら罵声を二、三言浴びせられ終わらせるはずだった。
「………同情じゃなきゃいーわけね」
「えっ…?」
朱月さんは向かいの椅子から立ち上がると私のベッドの脚前辺りにボフッと座って私の顔を見た。
「―――じゃあ俺は、氷を守るから」
ポンッ
「―――――は?」
ニシシッと子供っぽく笑えば私の頭に手を乗せた。対する私はあまりにも突然の宣言に口を開けてポカンとその言葉の意味をひたすら考えた。守る?
「…氷の全部守って、氷が俺と一緒にいてよかったと思えるようにしてやる。…だから、さ」
そして立ち上がった朱月さん。ベッド室のカーテンに手を掛ける。
「……………………」
そこでピタッと動きは止まった。数秒だがなんだかイヤに真剣だった。
「………もし少しでも俺を頼ってくれんなら、…連絡待ってる」
それだけ言い残して朱月さんは保健室から出ていってしまった。閉まるドア。
「……な……な」
勢いに負けて断れなかった。……でも、なんでだろう。
「………暑…ぃ…」
この気持ちはなんだろう。嬉しいのに変わりはない。だけど複雑な思いもある。―――だけど、私の心の中にはそれだけではない“別”な感情が芽生えていることを、私はまだ気付かなかった。
私は後悔する。もし無理に断っていたらこの後に訪れる苦しみに、辛さに、絶望に苛まれなくて済んだのだから。
だけど、止めたら私はこの後見れなかっただろう。
“連絡待ってる”
彼が、私の全てを変えることを――――
これは、とてもとても“愛苦しい”物語。
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