第一章

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「…なっなななッ……!」  私は思わず口が踊ってしまった。何故ここにいる、と聞きたかったが発音出来ない。 「な?……あー…待って、当ててやる。…んー。……あ、長芋?」  いや確かにそれは野菜に入ってはいるが。 「ちっ違うだろーがッ!なんでアンタここに…!」 「へっ?あーそっちか。だってココ、俺の特等席だもん」  うっわー。最悪の展開。 「…………ていうのは嘘。きっとココにくるかなーって」  そういえばこの男は私の真横に座った。ごく当たり前かのように。 「…私にまだ何かご用ですか」  今朝の一件があってからか少し刺々しい感じだった。……まぁ、しかし。コイツは何も……やってない…んだよな? 「…謝りたくてさ。俺のダチが朝やっただろ?………ごめん」 「何故、それをアナタが謝るんですか?」 「えっ?」 「…やったのはアナタじゃない。なのにアナタが代表して謝っても私の中に響いてなんて来ません。寧ろ謝る気はあるのに自分の口からは告げられない“意気地無し”だと私は思ってしまいます」  私だからまだいい。世の中このような感じで代理で誰かが謝ったりなんかして相手の神経を逆撫でさせるアホは一人でも正しておきたかった。 「………ハハッ」  そんでもって普通ならここまで相手の言葉をねじ曲げれば憤怒の感情を露にしてこっから出ていくはず。―――そう思っていた。 「やっべ。やっぱ面白いよ、アンタ」  なのに。 「……は?」  なんでこの男はこんなにも明るい笑顔で「面白い」などと言える?バカか。マゾなのか?―――しかし。 「………一口」  初めてかもしれない。 「一口?」  ここまでボロくそに相手を否定して前から去らなかった奴に出会ったのは。 「……ハンバーグ。イヤならやらん」 「………くうくうー!腹ペコー!」 「おまえ弁当持ってきてないのか?」 「あぁー…早弁しちまったー」 「バカか。なら二つ分作ってもらえ」 「バカッて……口わりーのー」 「バカはバカだ」 「…ハ…ハハハ!」 「………フン」  会話が成立する時のご飯は、こんなにも美味しかっただろうか…?
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