序章 夢の中へ

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 自由を手に入れる。  岩天井にぶら下がったランプだけが照らす薄暗い部屋の中で、少年は誓いを新たにした。  それはもう日課となっていた。ゴツゴツとした岩肌の床に寝転がり、他の暗がりの住民達が呻きながら眠りにつく横で、彼はこうして自己を保つ。  夢の中では武力を行使する野蛮人どもに叱咤されることもない。しかし、他の誰がそんな一時の平穏で満足しようと、彼はもっと大きなモノを求める。  牢獄のような場所に閉じ込められ、労働だけに明け暮れる日々はもうイヤだ、と。  暗闇で鍛え続けた肉体は、労働に耐えるためのものでも、夢の中へ逃避するためのものでもない。 (脱け出すんだ、この地獄から。手に入れるんだ、本当の自由を。俺に必要なのは、力だ)  羽虫が一匹、天井にぶらさがったランプの周りを飛んでいた。あれもまた、光を求めているのだろうか。  外に出ればこんなちっぽけではない、もっと大きな光がある。もっと明るい世界が広がっている。誰かがそう言っていた。  いつかここから脱け出して、ただただ好きなように生きてみせる。  その日を待ちわびて、少年は仕方なしに目的地とは程遠い逃げ場へ飛んでいく。  短く儚い、夢の中へ。
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