九章 偽りの親兄弟

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「どいてろくそ親父。そいつは俺が殺す」  メルトが堂々と物騒な発言をかました。そんな彼にフレッドルは諭しながら歩み寄る。 「そんだけボロボロな格好でよく言えたもんだなぁ? お前、もう充分に戦ったんだろ」  メルトはフィヤンをしりぞけるのに相当の体力を費やしている。先まではリンとも戦っていたのだ。  戦闘能力以前に、スタミナに限界が近づいている。メルト自身もわかっているはずだった。 「こんな奴ら俺だけでどうにかすっから、お前はそこのガキどもでも連れてどっか行ってろ。そうだな、南の方に奔ればそろそろ援軍が……」 「ふざけんなコラ。俺がやる」 「ったく、お前ってやつは」  それでもなお食い下がろうとするメルトの額に、フレッドルは指を突きつけながら、 「そりゃそうしたいってのもわかるぜ? なんせお前、ホントに自分勝手な奴だからなぁ。わかってるよ、わかってる」  だけどな、と。フレッドルは、父親の表情で言う。 「間違っても息子が死ぬのなんて、俺は見たくねぇよ」  突きつけられていた指は離され、代わりにメルトの頭には、優しく手の平が乗せられていた。  身長相応に小さい、それなのに大きくさえ感じる手の平。 「だからよ。今は俺に、守られててくれ」  守られろ、その言葉にメルトは大きく眼を見開いた。  十数年間生きてきて、自分を守るという人間などどこにもいなかった。  ある時は周りには敵しかおらず、ある時はそばに家族がいたが、それでも彼らは己の身は己で守ることを当然とした。味方が傍にいる状況の方が希少であることを、彼らは知っていたからだ。  しばらく関わっているシルバでさえ、まだメルトを守ると言ったことはない。そんな力は、あの少年にはまだないのだ。  しかしフレッドルは、メルトを守ると言った。  その二文字は、シルバが掲げるのとまったく同じものだった。  メルトにとってはまったく目新しい、温もりのある響きだった。
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