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「まあでも、あれだよなぁ――」
刹那、フレッドルはメルトを脇に抱きかかえて素早くその場を離れる。
「――血の気の多い連中だなぁ」
空を切り裂く轟音と共に、彼らのいた場所には、少女が鬼のような形相で移動していた。
「お兄ちゃんに、触るな」
「お前……意外と人気者だったのか?」
普段どおりの無愛想のまま抱えられているメルトを見て、フレッドルは苦笑する。
彼は『崩国者』とメルトの関係性については、ある程度まで本人から聞いていた。そこまで深く踏み込んだわけではないが、それでもメルトと崩国者の繋がりが大きいことは知っている。
あの黒ローブの少女にとっても、メルトの存在は決して小さくはないのだろうと推測できた。お兄ちゃんと呼んだ可愛らしい顔は、あまりにも憎々しそうにフレッドルのことを見ていたのだ。
かといって、はいそうですか、とメルトを手放すはずもない。
心の闇を知ってなお、彼はメルトのそばにいるのだ。
彼はメルトの父親なのだから。
「いつまで抱えてる」
「おお、悪かったな」
言われてようやく、フレッドルはメルトを解放する。二人の動いた先は、シルバ達のすぐそば。
この位置ならば、メルトが彼らを連れて行くのを庇いながら戦えると、そう考えたのだろう。
「そんじゃぁ、お前はそいつらを連れて行けよ」
「イヤだ。俺も戦う」
未だ強情に、メルトは戦うと言い張る。そんな彼に対し、もう一度説き伏せようとフレッドルが口を開く前に、
「だけど、面倒な奴は任せる」
メルトはゼイヘンを指差していた。
「メルト……」
「くそ親父が強いのは知ってる。くそ兄貴が強いのも、知ってる。だから」
また二つ、人影が増える。
「他の奴らは、俺がやる」
リンの傍には、短い白髪の男と、太り気味の男が立っていた。
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