九章 偽りの親兄弟

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「だけど、リン。これはチャンスだよー」 「そうだね」  リンが視線をメルト達に戻す。 「ジャコバンがいたら、問答無用で全力してたと思うしー」 「ゼイヘンお兄ちゃんも……手加減なんてしないと思う」 「やっぱり、リンも僕と同じように思ってるみたいだね」 「うん」  肌にまとわりつくような二つの視線は、メルトに緊張感をもたらす。  殺意とはどこか違っている強い意志を含んだ瞳は、黒髪の少年を捉えて放さない。  決して、放さない。 「「生きたまま連れて帰るなら、今しかない」」  異口同音。  あまりにも息の合った様は、彼らの目的がピッタリと合致していることを表していた。あまりにもそれに無我夢中であることを示していた。  仮にメルトを手中に収めたとして、その後のジャコバンやゼイヘンの追及からどう逃げ切るかなど、彼らの脳みそはこれっぽっちも考えてなどいない。  計画性の欠如? 違う。  彼らはいつだって、現在(いま)を生き抜くので精一杯だからだ。 「上等だァッ」  メルトの両腕が炎に包まれる。全快時よりは弱々しいそれも、まだ豪快に燃え盛っていた。  今にも暴れだしそうな面持ちの少年。そんな彼の肩に、手が置かれる。 「ちょっと、勝手にやる気にならないでよ」  メルトが後ろを見ると、フィリアンネをはじめに、スフィアとシーナも立ち上がっていた。 「あたし達も、戦うんでしょ?」  少し勝ち気な少女の手は、震えていた。 「……ああ、やるぞ」  ただメルトは短く、そう答えた。     *  *  *
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