九章 偽りの親兄弟

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「イッテエェェェッ!」  陽光が完全に閉ざされた空間に、ジャコバンの声が響いた。 「オイコラクソガキ、ちっとは静かにしろやァ」  言いながらゼイヘンは、自らを取り巻く環境に気を配る。  光が射し込まないせいだろう、先まで感じていた夏の暑苦しさはどこへ行ってしまったのか。また、ゼイヘンにとっての世界では実に奇妙な現象が起こっている。  魔力の塊で自分達が閉じ込められているのだ。 「オイィジャコバン。どんな状況になってんだァこれはよォ」 「俺達を岩の箱に閉じ込めやがッたんですよォッ。あの赤髪のチビ野郎がァッ!」  地面に転がっていたジャコバンは勢いよく立ち上がり、フレッドルを指差す。  敵意と悪意の同居した口調、しかしフレッドルを不機嫌にさせたのは『チビ』のただ一言であった。 「んだテメェ、殴り飛ばされるだけじゃ気がすまねェのかよコラァッ!」  わかりやすいくらいに癪に障ったのだろう、フレッドルの言葉も一気に荒々しくなる。 「なるほどなァ」  そんな二人を差し置いて、ジャコバンは状況を頭の中で整理していた。  とにかく、ここがスラム街に突如として出現した、広大な密室のような場所であることは理解した。 「殴り飛ばすだけで済むならよォ、もともとこんなことしてないんだろォが?」 「はん、まぁそりゃそうだよなぁ」  依然として平然なゼイヘンの様子を見て、フレッドルは湧き上がっていた怒りをそっと心の奥に抑え込む。  いや、見たというのは間違いであろうか。声を聞いて、という方が正しいかもしれない。  布で両目が塞がっているゼイヘンはもちろん、フレッドルにもジャコバンにも周りの景色はわからないのだ。  まさに、ここは真っ暗闇だった。
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