九章 偽りの親兄弟

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 直後、閉鎖された空間が、その猛威を振るう。  壁からは無数の岩でできた槍が飛び出す。  さらには地面のあちこちからは植物のツルのようなものまで現れた。間違いなく岩石で構成されたそれらは、だというのにゼイヘン達の足を絡めとろうとうねる。  驚くべき柔軟性をもった動きだが、それでも二人の崩国者を捕えるには至らない。  戦場慣れした動きと磨ぎ澄まされた魔力感知により、安全な足場へと次々に移動する。  しかし、足を封じられ串刺しになるのを防ぐあまり、槍の攻撃を完璧にいなすことができない。  身体の所々に軽傷を負いながら、ゼイヘンとジャコバンは槍の雨の隙間をぬう。 「よく避けるじゃねぇか」  フレッドルはただ独り悠長に構えている。二人の逃げる様子を目に焼き付けながら、腕組みをして一言。 「そのまま死ぬまで踊るか?」  残酷な提案であった。 「クハハァッ、オイオイィ、それが本気なら洒落になんねぇぞォ」 「わりかしマジでぶち殺したいんだが。つか俺よりデカい男皆消えろ」 「そいつァ無理な相談だろォ――なァ!」  逃げながらもゼイヘンが鞘から刀を引き抜いたと思うと、次には斬撃が放たれる。  フレッドルは岩の盾を作り出して身を守った。  盾と衝突した斬撃は、盾を粉々にすると同時に自身も霧散する。 「こんな力じゃ届きもしねぇぞ」  挑発的な態度を取るフレッドルに、ジャコバンの限界がやってきた。 「調子ノってんじゃねェぞォッ、クソチビがァァァッ!!」  鼓膜を突き破りそうな大声を張り上げ、ジャコバンは魔力を練り上げる。  怒りの沸点がおとずれた彼には、もう岩の槍などは気にならない。魔鎧をすり減らされながら、急ピッチでイメージを確立していく。 「この箱ごとぶっ壊してやらァァァッ!!」
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