九章 偽りの親兄弟

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 煙が消えていくにつれて、お互いの魔力を感じやすくなる。  腹立たしいチビ野郎の生命に異常がないことが、ジャコバンにはムカついてならなかった。 「クソがァッ、おとなしく死んでろッつゥんだよォッ!」  もはや暴言しか吐き出していないジャコバンにも、フレッドルは落ち着いた声色を保ってみせる。 「曲がりなりにも死線は越えてきてるつもりだからな。簡単に死ねねぇ理由も人並みにはあるさ」  フレッドルは気を緩めぬまま辺りを見渡す。 「まあ正直、咄嗟に閉じこもらなきゃまずかったがな。壁もここまで壊されるとは思ってなかったぜ?」  岩の壁にはヒビができた箇所がいくつかあり、なかには穴が開いて陽光が射し込んでいる部分もある。爆発の直前で、自分の周りに造りだした岩の壁も粉々になって転がっている。  ほんの少しだけ計算違いが存在したようだ。  とはいえ、無事でいるのだから問題はない。どれだけのミスを犯そうと、どれだけのアクシデントが起ころうと、生き残りさえすれば勝負には勝つ。  思ってもみなかった爆発の威力に臆するでもなく、フレッドルは壁の修復を行う。  まるで粘土でも引き伸ばすように岩石の貫通した穴を塞ぎ、刻まれたヒビも埋める。  多少なりとも魔力を消費してしまったが、致し方ない。是が非でも崩国者二名を外に出すわけにはいかないのだ。同時に時間稼ぎもしなければならない。  ギルドからの援軍は、予定通りならばじきにやってくる。自分が二人を仕留められずとも、応援さえあれば勝率はグンと引きあがる。  なによりも、メルトを殺させるわけにはいかない。  たとえ〝命を賭してでも〟。 「ハッ」  鼻を摘まれてもわからないような暗闇の中、思わずフレッドルは声を漏らす。  生き残れば勝ちだというのに、その勝ちを捨ててまで息子を死なせたくない自分がいる。  それが我ながら面白い。
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