九章 偽りの親兄弟

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「正直めんどくせぇ。ガチでめんどくせぇ……だが、まあしかたねぇな。しゃあねぇよ」  ゼイヘンとジャコバンに語りかけているのか、それとも自分自身に言い聞かせているのか。  面倒くさいと仕方ないとを繰り返したフレッドルは、深く深くため息をつき、そして空気を吸い込んだ。 「そんじゃま、死んででも息子を守らせてもらうとするか」  声が途切れた瞬間、けたたましい落下音が箱の内部を蹂躙する。  フタとなっている天井部分から、無数の岩の槍が降下し、ゼイヘンら二人を串刺しにしようと襲いかかる。  ゼイヘンは刀で、ジャコバンは脚と爆発で辛うじてそれらをしりぞけるが、その数は先までの比ではなかった。  上空を埋め尽くさんばかりに止め処なく降り注ぐ凶器は着実に二人の体力を削り取っていく。対してフレッドルは作り出した岩の殻に閉じこもっていた。 「クソッ、がァッ!」  腹の底から不愉快そうに叫ぶジャコバン、そんな彼にゼイヘンが言う。 「ジャコバァンッ! 道開けェ!」  どちらも切羽詰った状況での命令に、しかしジャコバンは舌を鳴らしながらも従う。  先の怒りに任せた爆発とは一変し、小型の魔弾を数個作り出すとそれらを降り注ぐ槍に的確にぶつける。  いくらか傷を負いながらジャコバンが作り出した、槍の豪雨の隙間。時間にしてみれば、数秒ともたない空白。 「充分だァ――ッ!」  しかしゼイヘンは駆け出す。自分と敵とを結ぶ一瞬の道を全力で進む。  蚕の繭のような形をした岩の塊に、中にいる赤髪の敵に、渾身の一撃を叩き込む。  暗闇で不気味に光る斬撃が、殻を真っ二つに切り裂いた。
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