九章 偽りの親兄弟

27/62
前へ
/956ページ
次へ
 殻の中は、空だった。 「いねェ?」  そこにあるはずの魔力が感じられない。そこにいるはずの赤髪がどこにもいない。 「ゼイヘンッ!!」  ジャコバンの声が響く。  ゼイヘンの思考が止まった刹那、待っていたとばかりに、生真面目に降下するだけだった岩槍の群れが変化を見せた。まるで意思を持った鳥のように標的をゼイヘン一点に定める。  数えるのも億劫になるほど大量の岩槍にも、ゼイヘンは怯むことはせず刀で斬りおとしていく。  しかし捌ききれる数ではない。いくらかの傷を負い、それでも刀一本で全ての槍を処理し終えた。 「ここだよ、バーカ」  ようやく首の皮一枚つなげたというところに、追い打ちがかかる。  探していた人物の声が上空から落ちてきたのとほぼ同時、左肩に生温い感触が広がった。 「クソガキッ……テメェ、天井にでも張り付いていやがったかァ?」  ゼイヘンは、自らの左肩に岩槍を突き立てているフレッドルに問うた。 「取っ手つけてぶら下がってたぜ」  馬鹿みたいに造りだした槍の雨は、決してゼイヘン達を仕留めるためのものではなく、上に移った自分の存在を知られないようにしたモノであった。魔力を惜しげもなく消費したのは、この一撃を与える状況に追い込むため。  指令さえ与えれば、この場所に集中するよう術式を組み込んでいたのだろう。  ゼイヘンが理解した時には、左肩の痛みが腕の方まで広がって、感覚が麻痺してくる。  それでもなお、彼は嗤っていた。 「遠距離攻撃しかしねェ、ビビりクンだと思ってたんだが……なァ?」 「いつもなら相手の苦しむ様を眺めてるんだがよ。言ったろ、命賭けるってなぁ」  ああそれと、とフレッドルは付け足す。  それはもう、目一杯の怒気を表情に滲ませて。 「俺はガキじゃねぇ」
/956ページ

最初のコメントを投稿しよう!

960人が本棚に入れています
本棚に追加