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殻の中は、空だった。
「いねェ?」
そこにあるはずの魔力が感じられない。そこにいるはずの赤髪がどこにもいない。
「ゼイヘンッ!!」
ジャコバンの声が響く。
ゼイヘンの思考が止まった刹那、待っていたとばかりに、生真面目に降下するだけだった岩槍の群れが変化を見せた。まるで意思を持った鳥のように標的をゼイヘン一点に定める。
数えるのも億劫になるほど大量の岩槍にも、ゼイヘンは怯むことはせず刀で斬りおとしていく。
しかし捌ききれる数ではない。いくらかの傷を負い、それでも刀一本で全ての槍を処理し終えた。
「ここだよ、バーカ」
ようやく首の皮一枚つなげたというところに、追い打ちがかかる。
探していた人物の声が上空から落ちてきたのとほぼ同時、左肩に生温い感触が広がった。
「クソガキッ……テメェ、天井にでも張り付いていやがったかァ?」
ゼイヘンは、自らの左肩に岩槍を突き立てているフレッドルに問うた。
「取っ手つけてぶら下がってたぜ」
馬鹿みたいに造りだした槍の雨は、決してゼイヘン達を仕留めるためのものではなく、上に移った自分の存在を知られないようにしたモノであった。魔力を惜しげもなく消費したのは、この一撃を与える状況に追い込むため。
指令さえ与えれば、この場所に集中するよう術式を組み込んでいたのだろう。
ゼイヘンが理解した時には、左肩の痛みが腕の方まで広がって、感覚が麻痺してくる。
それでもなお、彼は嗤っていた。
「遠距離攻撃しかしねェ、ビビりクンだと思ってたんだが……なァ?」
「いつもなら相手の苦しむ様を眺めてるんだがよ。言ったろ、命賭けるってなぁ」
ああそれと、とフレッドルは付け足す。
それはもう、目一杯の怒気を表情に滲ませて。
「俺はガキじゃねぇ」
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