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「はッ、そんな外見には見えねェがなァ」
先まで降り注いでいたよりも細身で鋭利な槍が、自らの左肩を貫通している。
痛みが感じられなくなりそうなほどの激痛。だというのに減らず口をたたくゼイヘンに、フレッドルは恐怖すら抱き始める。
両手でしっかりと握っている岩槍は間違いなく目と鼻の先の男に突き刺さっている。槍というよりは矢のような見てくれにしているが、それもゼイヘンの魔鎧を破りやすくするためだ。一点の穴から鎧の内に入り込みやすくしたからだ。
その甲斐はあった。
彼の左肩は、しばらくはまともな働きもできないはずだ。
けれど、嗤っている。
少なからず満足しているフレッドルを嘲るように、嗤っている。
「テメェ、そんな余裕ぶっこいてて大丈夫かよ。口だけで死んだりしねぇだろうなぁ」
もちろん、フレッドルもこの程度で仕留められる相手だとは思っていない。敵の実力を計り知れぬようならば、彼がギルドの要職に就き、ここに立っていることもないのだから。
『崩国者』が一筋縄でいく連中でないことはわかりきっていた。
彼らに関する情報で唯一、嘘偽りのないものがある。それは少なからず、彼らの名が世界に轟いている理由とも言えよう。
彼らがあまりにも、少人数の集団であることだ。
数人というまでに少ないわけではないが、その実態は三桁に届くか届かないかといったほどだ。
大型の犯罪集団にしては明らかに少人数、それでいて凶悪。それは構成員ひとりひとりの戦闘力の高さと、鎖のように堅強な統率力とを表している。
その異常性が、まさに顔をのぞかせているのだろう。いつ死んでもおかしくない状況で、なお笑うことのできるメンタル面は狂気に他ならない。
それはメルトにも通ずる所があり、数多の死地を潜り抜けてきたのであろうことを思い知らせる。
フレッドルはただ油断しないことを心に刻んだ。
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