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「待ちやがれ、俺の朝食を返せッ!」
「返せと言われて返す。そんな風に人の言いなりになるのはごめんだ」
「その理想はモラルの範囲内で実現させてくれ!」
うららかな春、慈母のごとく暖かい日差しを注ぐ季節に、〝国立ヘルメーラ魔法学園〟の廊下では騒々しい追いかけっこが行われていた。
ほぼ等間隔に立ち並んだドアと窓に挟まれた道で、木材の床をテンポ早く踏み鳴らし、少年達は走る。
世に遍く普及した〝魔法〟を習う機関である魔法学園の中でも、ヘルメーラ王国最高位との名高い学園とはいささか似つかわしくない様子だった。
「値引きパンの中からジャムが多く入ってそうな商品を探すのが、どれだけキツイ作業かわかるかっ!? 悩み過ぎてると他のお客から痛々しい視線を浴びるんだぞ!」
追いかけている方〝シルバ=フェイロン〟は、肩の上ぐらいまである銀髪の少年だ。初々しい感じのする新品の制服、灰色のズボンと紺のブレザーに身を包んでいる。
身長は一五にしては平均より少し高い程度、声にもこれといった特徴はない。
ただし今に限っては、怒りのせいで覇気が籠められていた。
「これがジャムパンというやつか、なるほど」
対して追いかけられている方〝メルト=ロサリオ〟は、眠気のせいかどこか無機質な声で呟いた。
こちらも新品であろう彼の制服には既に無数のしわが刻まれている。風に揺らした黒髪は寝癖のせいか酷い有様で、上背はシルバより頭一つ分低いくらいだろうか。
シルバの叫びなど意に介する風もなく、メルトは手に持った紙袋からパンを取り出した。
「ちょっ待てっ、マジで食うのかお前。踏みとどまれっ、帰ってこいっ、俺の朝食ゥーーッ!」
「こんなに甘い物を食べたのは久しぶりだ。いただきました。ごちそうさま」
シルバの絶叫もむなしく、メルトはジャムパンを一瞬で胃袋の中へとおさめると満足そうに手を合わせた。
「コノヤロー……ただでさえ節約しなきゃならないっていうのに、ッ!」
次第に込み上げてきた怒りに嘘を吐く必要はない。シルバは涙目になりながら、視線の先で立ち止まった少年に右手をかざす。
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