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シルバが力を籠めるように深呼吸すると、かざした手の平の前に青白く光る球体が出現した。
すぐにシルバの手と同程度まで巨大化して、微かに震える。
「ただの〝魔弾〟だ。死ぬんじゃねぇぞぉ!」
「んむ――っ!」
魔弾と呼ばれたそれはギリギリ目視できる速さで直進し、メルトの顔に衝突した。爆発音の後に煙があがり、紙袋を宙に放りながらメルトが床に倒れる。
「ふははは、食べ物の恨みを思い知れ」
「いてぇ」
「うおっ!?」
痛いと洩らしながらも相変わらず眠そうな表情で頭を掻く盗人に、シルバは愕然としたまま硬直する。
全力ではなくとも自らの〝魔法〟をまともに喰らったはず。それでも平然としている目の前の少年に、シルバはどう接すればいいのか分からなくなった。
「食べ物の恨みは確かに大きい。だが顔面爆破の恨みも中々だ」
「ちょ、ちょっとちょっと、原因を完全に忘れてないか」
事の発端は数時間前にさかのぼる。
学園生の入寮は入学式の後ということで近辺の宿に泊まっていたシルバは、新生活への期待を胸に学園へと足を向けた。
道中で朝方から開店していた気前のいいパン屋を見つけて食糧を購入。
早朝ゆえに閑散とした教室の前でシルバが立っていたところ、突然現れたメルトが彼の手から紙袋をひったくったのだ。
メルトは美味しそうな匂いがしたという単純な理由でその行動にうつったのだが、シルバからすれば意味不明も甚だしい。
そのうえ、メルトはまるで覚えていないかのように首を傾げる。
「顔面が爆破されたのと、とてつもなく甘い物を口に含んだのと、ついでに食べ物が入ってそうな紙袋を貰ったことしか覚えてない」
「重要な部分覚えてたよな。それにあげてないから、奪われただけだから」
「ということで、お前がやる気ならこちらも全力で挑む」
「どうしてそうなる!」
シルバの発言も空しく、メルトは呑気に準備運動を始める。酷くマイペースな奴だと、シルバは理解した。
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