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時は入学式終了後、一年G組の雰囲気は明るかった。
入学当初独特の気まずさが存在しないのは、〝フィリアンネ=カーティス〟という女生徒によるものだ。短めのボーイッシュな茶髪、さらに長身の彼女は、すでにクラスのムードメーカーとして君臨していた。
唯一のコンプレックス、発育の悪い胸さえはねのける明るさは、常人のそれを凌いでいる。
しかし、この教室には彼女さえ容易には近づかない空間があった。フィリアンネはじっと、教室の奥、窓際の隅を見つめる。
追いやられるようにそこに座っていた二人の少年は、何故か式に出席していなかった二人であり、教室で初めて彼らを見た生徒達は一様にこう思ったことだろう。特に銀髪の方の少年を見て。
なんか暗い、と。
「くそぅ……全部お前のせいだからな……」
「他人になすりつけるな。お前があっさり倒れるから逃げられなかった」
「問題はそこじゃないだろっ!」
シルバは乱暴にメルトに言い放つと、腕組みをしながら背もたれに寄りかかる。
後部の座席からもホワイトボードが見えるようにした配慮か雛壇式の教室は、五十人以上の生徒がいてまだ余裕があるようだった。
「早くも担任には目をつけられ、しまいには悪意満々の座席移動だ。なんだよこれ隅っこって、ただのイジメだろ」
「そうだな」
「……お前さ、もう少し感情ってやつをだな」
「黙れよ問題児」
突然、飛来した白い棒が背もたれにぶつかり粉々になる。シルバは冷や汗を、メルトは欠伸をそれぞれかきながら、チョークの発射地点を見つめた。
「文句も嘆きも後でゆっくり聞いてやる。だから黙ってろシルバ=フェイロン、メルト=ロサリオ」
三つ編みにされた青髪をなびかせ、一人の教師が入室していた。
黒のスーツに赤いネクタイとシンプルな正装を着こなし、これ見よがしに掌でチョークを転がしている。
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