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まりあもさくらと同じく手芸部員だ。
「お疲れ様…──まりあ。それ、で、どうだったのかしら?世界史の追試は……」
後方からまりあに羽交い締めにされて、さくらは、首を絞められた鶏の気持ちが少し分かった。
苦しげに声を絞り出し、さくらはまりあの腕から逃れて問うた。
まりあのいつもの定位置は、さくらの隣席だ。
互いに回転椅子を回して、さくらはまりあと向き合った。
「聞いて、さくさく!折角昨日、一夜漬けで試験範囲全部頭に叩き込んだのに、あたしの記憶は朝陽に当たると溶けてしまうみたいでね」
「まぁ」
「古代哲学者のおじさん達の名前も事件名も地名や理由も、書けたのに……法令や組織の名称だってバッチリ覚えてきたのにっ」
「手応えがあったのね」
「全っっ然!年号と事象が頭の中で一致しなかったのよっ!ちんぷんかんぷんよっ。ついでに最後の問題なんて、教科書に載ってなかったやつなのよ!」
「それはつまり引っかけ問題?」
「ほら、河内先生が雑談してた人。何ちゃら戦争で手柄を立てた指揮官だけど、部下が大量に命を落としたからって責任取って、自分で自分の名前を歴史から削ったおじさんっ。昔は名前が残ってこそ名誉で万歳ってな時代だったから、それを自分から返上したとかで、河内先生が『男の中の男だー』って褒めてたおじさんの名前が分からなかったのー……」
無念を一気に吐き出して、まりあは作業台に突っ伏した。
まりあを見つめて、さくらはかけるべき言葉に悩む。
「仕方がないわ。暗記苦手なのにまりあは頑張ったと思う。レポート、私も手伝うから今日のことは忘れましょう?」
かくいうさくらも、年号の暗記は大の苦手だ。教師の雑談だって、ノートまでとるような優等生ではない。
今回は運良く期末試験で合格点を得られたさくらとて、ともすればまりあの立場に立たされていた可能性はゼロではなかった。
まりあの不運が、さくらには他人事とは思えなかった。
「レポート……決定なんだ……」
もっとも、ぼそりと呟いたまりあの声にはっとした時には手遅れだ。
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