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王女専属の護衛は、出征や兵役が免除される。王女の側で、王女をあらゆる危険から守ることだけが役目だからだ。
婚姻関係で結ばれる生涯のパートナーより、ある意味、王女と専属の護衛には強い繋がりがあった。
リーシェとカイルが惹かれ合ったのは、必然的だったのかも知れない。
カイルの魂を継いだ人物に、さくらは逢いたくてたまらなかった。
さくらが何度も転生を繰り返しているように、カイルも、この世のどこかに転生しているはずだ。
予感と言うより、それは確信に近い。
リーシェには、カイルと交わした約束がある。
さくらは、今度こそそれが果たされる気がしていた。
氷華は表向き平和な国だった。リーシェもカイルも、並み外れて恵まれた境遇に生まれ育った。
永遠に続いていくような幸せな日々に、まさか終止符があろうとは、あの頃の二人にどうして想像出来ただろう?
ぬくぬくとした場所から二人が突き落とされたのは、あまりに突然のことだった。
些細な事故から、氷華は隣国、天祈(あまき)の帝国と戦になった。
敵の罠に落ちたリーシェを庇い、カイルは自らの胸を剣で貫いたのだ。
『──貴女のいない氷華など、護る価値もなくなります。俺は──…氷華の騎士失格だ。どうかお逃げになって下さい』
『カイルっ!』
『泣かないで……愛おしいリーシェ様。もし、まだ貴女のお気持ちに変わりがないなら……』
『………っ』
『いつかの来世、貴女と俺が……一六になる歳の春……』
『いや、カイル……ダメ……』
『平凡な人間、同士、あの海辺に咲く樹の下で……リーシェ様のお誕生日をお祝いします……』
気休めのような口約束が、リーシェの彼との最後の記憶だ。
あの時、リーシェは来世でも信じたかった。
非現実的だと分かっていても、輪廻の鎖は二人を分かたない──そう信じるしか、リーシェが救われる道はなかった。
貪っても貪っても足りなかったあの短い幸せの続きを、来世で迎えられれば良い。
それだけをリーシェは願った。
『約束するわ!私きっと、貴方と同じ場所に生まれる!』
瞼を閉じるまで、優しく微笑んで頬を撫でてくれたカイルの指を、体温(ぬくもり)を、存在を──リーシェには疑えなかった。
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