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きっとカイルは自分を探し出してくれる。
自分もカイルを探し出せる。
希望も光も失くした世界の中で、交わした最後の約束だけが、リーシェの一縷の力となった。
あれから何千年もの時が流れた。
現代のこの地で、再び小さな花が太陽の匂いを見つけた。
さくらが一六歳になる四月の初日──それは来週の土曜日だ。
あの時約束した潮の匂いと桜の芳香とけ合う海辺に、彼は来てくれるだろうか?
今生でカイルの魂を継いだ人物の顔も、名前もさくらには分からない。
だが、彼の存在はどこからともなくさくらの魂に囁きかけてくれていた。
特別な力を代々受け継いでいた、氷華王家の王女の魂を持つさくらにだから、分かるのだ。
カイルの存在が、近くに、いる。
ただ、会いたい。
何度も転生を繰り返してきたさくらの中で、リーシェの魂は叫び声を上げていた。
"カイル。誰からも愛された貴方を覚えているのは、もう私だけになってしまったのかも知れない。貴い貴方は、あんな最期を迎えることなかったはずなのに……"
記憶の蓋を紐解いて、束の間、さくらは感傷に浸っていた。
リーシェの記憶は、さくらだけの宝物だ。
誰にも明かしたことはない。
改めて、さくらはまりあに向き直る。
「何だって、存在した事実は消えないの。一人の人を、あるいは国を、愛した人達の心の中から名前を消すことは誰にも出来ない。だからたとえ水面下でも、密かに語り継がれる奇跡もあるのかも知れないわ」
カイル・クラウスは歴史に名前を残さなかったが、さくらの中には生きている。
優しく気高い少年を想い、さくらはまりあに微笑んだ。
「なるほどね」
存外にあっさり、まりあは納得してくれた。
「まるで自分のことみたいに話すのね、さくさく。実体験?」
「えっ、別にそういうんじゃ──」
「あ、もしかして弦祇先輩のことかなー?そっかそっか、弦祇先輩は女優志望らしいけれど、成就するとは限らないものねぇ。だとすれば、あの妖精さんの晴れ姿はさくさくの胸の中だけに未来永劫残る……!美しい、愛情だわ」
「どっ、どうして弦祇先輩なのっ?大体、先輩に失礼でしょう!」
「実体験」というキーワードにも心臓が跳ね上がるかと思ったが、それよりも話を飛躍してくれたまりあの発想に、さくらは慌てふためいた。
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